虫刺されについて
暖かい季節になると増えてくる虫刺され。とくに蚊による虫刺されは、夏の風物詩といっても過言ではないほど日常的なものです。そのため「虫刺されなんて、大したことない」と思っている人も多いのではないのでしょうか。けれども実は、虫刺されにはいろいろな種類があり、その症状もさまざまです。そこで今回は、虫刺されの種類や皮膚科受診の目安についてお伝えします。
虫刺されの症状
虫刺され(虫刺症)とは、虫に刺されることで起こる皮膚炎の総称です。この名称には「刺す」という字が使われていますが、刺される以外にも、虫に血を吸われる、咬まれる、接触することによる皮膚炎も、虫刺されに含まれます。
代表的な症状は、痛み、赤み(発赤)、腫れ、かゆみ、水ぶくれなどです。このうち痛みは、虫に咬まれたり、刺されるという物理的な刺激によって生じたり、虫の唾液や毒などが皮膚内に注入される際に起こります。一方、赤みやかゆみ、腫れなどは、注入された唾液や毒に対して起こるアレルギー反応です。このアレルギー反応には、虫刺され直後にみられる「即時型反応」と、数日後に現れる「遅発型反応」とがあります。
さらに、虫の種類や刺された人の体質によっては、アレルギー反応によって気分が悪くなる、お腹が痛くなるなどの全身症状が現れることもありますし、もっとひどい場合には、意識障害やショック症状が起こることもあります。このように虫刺されは、時に恐ろしい症状を引き起こすこともあり、決して侮ることはできないものなのです。
虫刺され:原因になる虫って?
お伝えしたように、一般的な虫刺されは「虫に血を吸われること」「咬まれること」「刺されること」そして「虫に接触すること」が原因となります。具体的な虫の種類をご紹介します。
血を吸う:蚊、アブ、ブユ、ノミ、ダニ
刺す虫:ハチ
咬む:ムカデ
接触する:有毒の毛虫
それぞれの特徴について、見ていきましょう。
虫刺され:蚊
国内で見られる蚊はおよそ130種類にのぼりますが、虫刺されの原因となるのは、おもにヒトスジシマカとアカイエカ、チカイエカの3種類です。種類によって生息場所が異なりますが、屋外だけでなく、室内でも刺されることがあります。
蚊は吸血する際に唾液などを注入します。こうした物質に対する即時型反応として、刺された直後にかゆみや腫れが現れますが、1~2時間後には消失します。また、刺された次の日になると、遅発型反応として再び刺された場所にかゆみが出てきたり、赤みや腫れが生じることがあります。
このような症状の現れ方は年齢によって違いがあります。個人差はありますが、たとえば小さな子どもは遅発型反応しか現れませんが、幼児期以降では両方の反応が現れるようになります。さらに成長し、青年期以降になると即時型反応だけが現れるようになり、高齢になると、どちらの反応も現れないこともあります。
なお、蚊に刺された場所の皮膚症状に加えて発熱やリンパ節の腫れといった全身症状がみられる場合には、「蚊刺過敏症(ぶんしかびんしょう)」の可能性があります。別名「蚊アレルギー」とも呼ばれていて、くり返し症状が現れることもあるため、皮膚科を受診するようにしましょう。
虫刺され:ブユ(ブヨ、ブト)
小さなハエのような見た目のブユ。蚊と同じように、ヒトの血を吸います。ブユの特徴として、刺された直後にはかゆみなどの症状が起こらないことがあげられます。症状が出始めるのは半日くらい経った頃。次第に赤み、腫れ、かゆみの症状が強くなっていきます。スネのあたりを刺されることが多く、かきむしることで赤みやしこりがしばらく残ることもあります。キャンプ場や川沿いなどで刺されることが多いので、アウトドアの際には注意が必要です。
虫刺され:アブ
アブもヒトの血を吸う虫ですが、蚊とは違って皮膚を咬み、そこから出てきた血を吸うという特徴があります。そのため、刺された際には痛みが伴い、しばらくしてから腫れやかゆみといった症状が現れます。
虫刺され:ノミ
ノミによる虫刺されの多くは「ネコノミ」によるものといわれています。公園や庭など屋外で刺される場合もありますが、犬や猫に寄生することが多いので、こうしたペットを飼っている家では室内でも刺されるリスクがあります。ノミに刺されても直後には症状はなく、数日経ってから赤みやブツブツといった症状が現れるようになります。
虫刺され:ダニ
室内でダニに刺される原因の多くはイエダニです。イエダニはネズミに寄生するため、ネズミが生息する古い家などにはイエダニが出やすいといわれています。夜間の睡眠中に刺されることが多く、太ももの内側、脇腹や下腹部が狙われます。刺されると、赤みやブツブツなどの皮膚症状が現れます。
また、屋外ではマダニに注意が必要です。マダニは野生動物が多い場所に生息しますが、畑や人家の裏庭などで見かけることもあります。太もも、脇腹、陰部などにかみつき、赤みや腫れなどの症状が現れる場合もありますが、症状が現れないことも珍しくありません。
マダニをはじめダニ類の多くは、数日にわたって皮膚にくっつき吸血することがあります。皮膚にくっついているのを見たらつい取りたくなってしまうと思いますが、無理やりとったり、殺すことは、危険です。なぜならマダニの病原体が体内に入ってしまったり、マダニの口が皮膚内に残ることがあるからです。ですから、吸血中のマダニはさわらずに、そのまま病院へ行って処置を受けましょう。
なお、病原体を持ったマダニに咬まれた場合にはさまざまな感染症を発症する可能性があります。マダニが生息しているような場所に行った数日後に発熱やおう吐など、何らかの体調不良がある場合には、必ず病院を受診してください。
虫刺され:ハチ
人を刺すハチはおもに、ミツバチとスズメバチ、アシナガバチの3種類といわれています。ハチに刺されると強い痛みや灼熱感とともに、皮膚が赤く腫れあがり、悪化すると出血したり、水ぶくれや潰瘍ができることもあります。ただし、こうした症状は1日もすればよくなることがほとんどです。それよりも恐ろしいのが、強いアレルギー反応が起こるケースです。これはハチ毒に対する抗体を持った人にだけ現れるものです。また、初めて刺された際にアレルギー反応が起こることはありません。けれども、1度刺されて体内に抗体が作られると、2度目以降に刺されたときにアレルギー反応が現れるようになります。多くの場合、刺されてから30分以内に全身にかゆみやじんましん、吐き気、胃の痛み、むくみなどが現れ、ひどい場合にはアナフィラキシーショックを起こして意識がなくなったり、呼吸困難に陥ることもあります。こうした症状が現れた際には、救急車を呼ぶことが求められます。
虫刺され:ムカデ
ムカデは牙を使って皮膚を咬み、そこに毒成分を注入します。ムカデに咬まれると、その直後から強い痛みや腫れ、赤みなどの症状が現れます。また、リンパ節が腫れるほか、咬まれた箇所から身体の中心部にむかって線状に症状が出ることもあります。さらに、ハチと同様にアナフィラキシーショックを起こすこともあり、注意が必要です。
虫刺され:有毒の毛虫
毛虫の中には、針やとげに毒を有している種類がいます。たとえば、ドクガ、チャドクガ、イラガ、ヒロヘリアオイラガの幼虫などです。中でも、チャドクガの幼虫は椿やツツジといった庭木などに生息しています。そのため、庭作業の際にふれてしまい発症することがあります。
これらの毛虫にふれると、じんましんのような症状や、かゆみ、赤いブツブツが現れます。また、ヒロヘリアオイラガに刺されると、激痛をともなうこともあります。このような毛虫に接触することで起こる皮膚炎は「毛虫皮膚炎」と呼ばれています。毛虫にふれてしまった場合は、絆創膏などの粘着性のあるテープを使って皮膚についた針をとるようにしましょう。
皮膚科に受診した方がよいケースとは?
ここまでさまざまな種類の虫刺されを紹介してきましたが、基本的にはかゆみ、赤み、腫れなどがあっても、数日で治まることがほとんどです。そのため、掻きむしったり、いじったりせず、様子をみるようにしましょう。かゆみが我慢できない場合には、市販のかゆみ止めを塗るのも対処法の一つです。
一方で、刺された部位以外にも症状が出る場合や発熱などの全身症状が伴う場合、また、数日たっても症状が改善しない、あるいは悪化するような場合には皮膚科の受診が必要になります。受診する際には、いつから、どのような症状が出ているのか、さらにどこで、どのような活動をしたのかということを、正確に医師に伝えることが大切です。
あわせて、ふだんから予防策を講じておくことも重要です。とくに草木が多い場所に行く際や、屋外でレジャーを楽しむ際には虫よけスプレーを使用する、衣類や帽子、タオルなどで皮膚の露出部分を減らすなどの対策をとりましょう。